大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)6050号 判決 1965年11月29日

原告

都島住宅株式会社

右代表取締役

高士政郎

右訴訟代理人

藤原龍男

右訴訟復代理人

出宮靖二郎

被告

杉井光治

右訴訟代理人

大川立夫

被告

菖浦秀雄

ほか三名

主文

一、被告杉井光治は、原告に対し、別紙目録第二の(一)記載の建物を収去して、同目録第一の(二)記載の土地部分を明け渡し、昭和三九年一二月二二日から右土地明渡ずみに至るまで一カ月金四一八円の割合による金員を支払え。

二、被告菖浦秀雄は、原告に対し、別紙目録第二の(二)の(A)の記載の建物部分より退去して、その整地五坪八合九勺の土地部分を明け渡せ。

三、被告川原信義は、原告に対し、別紙目録第二の(二)の(B)記載の建物部分より退去して、その敷地四坪四合四勺の土地部分を明け渡せ。

四、被告菖浦すては、原告に対し、別紙目録第二の(二)の(C)の記載の建物部分より退去して、その敷地一坪九合七勺の土地部分を明け渡せ。

五、被告砂田重子は、原告に対し、別紙目録第二の(二)の(D)の記載の建物部分より退去して、その敷地一坪五合の土地部分を明け渡せ。

六、訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、別紙目録第一の(一)記載の土地(以下本件九四番地の土地という)を所有している。

二、被告杉井は、右土地の一部である別紙目録第一の(二)記載の土地部分(以下本件係争地という)上に同目録第二の(一)記載の建物(以下本件建物という)を所有して、右土地部分を占有している。

三、被告菖浦秀雄は、右建物のうち別紙目録第二の(二)の(A)記載の部分(以下(A)部分という)に居住して、その敷地五坪八合九勺の土地部分を占有している。

四、被告川原は、本件建物のうち別紙目録第二の(二)の(B)記載の部分(以下(B)部分という)に居住して、その敷地四坪四合四勺の土地部分を占有している。

五、被告菖浦すては、本件建物のうち別紙目録第二の(二)の(C)記載の部分(以下(C)部分という)に居住して、その敷地一坪九合七勺の土地部分を占有している。

六、被告砂田は、本件建物のうち別紙目録第二の(二)の(D)記載の部分(以下(D)部分という)に居住して、その敷地一坪五合の土地部分を占有している。

七、原告は、被告杉井の右不法占有により損害を蒙つているが、その損害額は、地代家賃統制令第五条第一項の規にによる地代の停止統制額を下るものではない。そして、本件九四番地の土地の昭和三八年度の価格は、金四一万二、二〇〇円、昭和三九年度の価格は、金三七五万二、三〇〇円、同年度の固定資産税および都市計画税は、金七、九一〇円であるから、昭和二九年三月三一日建設省告示第一〇七二号によつて改正された「地代家賃統制令による地代並びに家賃の停止統制額又は認可統制額に代るべき額等を定める告示」(昭和二七年一二月四日・建設省告示第一四一八号)第一項に基づき算出された本件係争地の昭和二九年度の停止統制額は、別紙計算書記載のとおり一カ月金四一八円である。

八、よつて、原告は、本件係争地の所有権に基づき、被告らに対し、次のとおり請求する。

(一)、被告杉井は、本件建物を収去して、本件係争地を明け渡し、本件訴状送達の翌日である昭和三九年一二月二二日から右土地明渡ずみに至るまで賃料相当一カ月金四一八円の割合による損害金を支払うこと。

(二)、その余の被告らは、本件建物のうち各自の占有する建物部分より退去して、件件係争地のうち右各建物部分の敷地にあたる土地部分を明け渡すこと。

と述べ、被告杉井の抗弁に対し、

一、被告杉井の主張事実中、同被告の先代である訴外杉井稔が原告より大阪市都島区都島本通一丁目四一番地の二宅地八二坪八合九勺(以下本件四一番地の二の土地というのう)ち一七坪五合の土地部分を賃借していたこと、右四一番地の二の土地がその後換地処分により本件九四番地の土地となつたこと(ただし、本件九四番地の土地は後記のように本件四一番地の二の土地外二筆の土地の換地である)、右賃借権が未登記であり、右杉井稔が土地区画整理法第八五条第一項による権利の申告をしなかつたため、右換地処分に際し、その目的となるべき宅地の部分を定められなかつたことおよび右杉井稔が死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。同被告の法律上の主張も争う。

二、右抗弁に関する原告の事実および法律上の主張は次のとおりである。

(一)、原告は、昭和二三年一一月一日、右杉井稔に対し、前記一七坪五合の土地部分を、応急簡易住宅所有の目的で賃貸した。

(二)、ところが、昭和三五年一〇月二一日、大阪市長は、原告に対し、原告の所有していた本件四一番地の二の土地および同市都島区都島本通二丁目五六番地宅地一六坪九合、同所五七番地宅地三三坪七合三勺の三筆の宅地に対し本件九四番地の土地を換地とする旨の換地処分をなし、同年一一月三〇日、右換地処分をした旨の公告をなしたので、その翌日である昭和三五年一二月一日から、右換地が従前の宅地とみなされた。

(三)、しかるに、右杉井稔は、前記賃借権が未登記であつたにもかかわらず、土地区画整理法第八五条第一項による権利の申告をしなかつたので、右換地について賃借権の目的となるべき宅地の部分を定められなかつた。

(四)、したがつて、土地区画整理法第一〇四条第二項により、前記賃借権は、右公告の日が終了した時において消滅したものというべきであるが、かりにそうでないとしても、右換地について具体的に賃借権を行使しうる位置、範囲が定まつていないのであるから、被告杉井の本件係争地についての占有は不法である。

と述べ、被告菖浦秀雄、同川原、同菖浦すて、同砂田(以下被告杉井を除く被告らという)の抗弁に対し、「被告杉井の先代である訴外杉井稔が死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。」と述べ、立証として、甲第一ないし第四号証を提出し、「乙号各証の成立を認める。」と述べた。

被告杉井訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「請求原因第一、二項の事実および本件係争地の昭和三九年度の停止統制額が一カ月金四一八円であることは認める。」と述べ、抗弁として、

一、被告杉井の先代である訴外杉井稔は、原告より本件四一番地の二の土地のうち一七坪五合の土地部分を賃借し、その地上に本件建物を所有していた。

二、ところが、右四一番地の二の土地は、その後換地処分により本件九四番地の土地となつたが、右賃借権が未登記でありまた右杉井稔が土地区画整理法第八五条第一項による権利の申告をしなかつたため、右換地処分に際し、その目的となるべき宅地の部分を定められなかつた。

三、しかしながら、換地について賃借権の目的となるべき宅地の部分を定められなかつたからといつて、そのことによつて従前の土地についての賃借権が消滅するものではない。けだし、土地区画整理法第一〇四条第一、二項によれば、換地計画において換地または所有権および地役権以外の権利の目的たる換地もしくはその部分を定められなかつた場合には、これら従前の宅地またはその部分について存した権利は、換地処分の公告があつた日が終了した時に消滅するというのであるが、右の換地もしくはその部分が定められなかつた場合とは、過少宅地借地についてまたは関係権利者の同意による換地不指定清算処分がなされた場合をいうのであつて、本件のように未登記借地権が存する従前の宅地について換地が指定されたが、借地権においては換地またはその部分が指定されなかつた場合は含まれないと解すべきであるからである。

四、したがつて、右賃借権は、換地処分によつて本件九四番地の土地に移行したものであるが、右換地処分はいわゆる現地換地であり、本件係争地は従前の宅地である本件四一番地の二の土地について存した賃借権を行使する部分として相当であるから、右杉井稔は、右換地処分後も本件係争地につき賃借権を有していたものである。

三、ところが、右杉井稔は、昭和三六年一〇月三一日死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得するとともに、本件係争地に対する右賃借権を承継したものであるから、原告の本訴請求は失当である。

と述べ、立証<省略>

被告杉井を除く被告らは、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「同被告らがそれぞれ本件建物のうち原告主張の建物部分に居住して、原告主張の土地部分を占有していることは認めるが、その余の事実は否認する。」と述べ、抗弁として、「被告杉井の先代である訴外杉井稔は、原告より本件係争地を賃借し、その地上に本件建物を建築所有していたところ、同人は、昭和三六年一〇月三一日死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得するとともに、本件係争地に対する右賃借権を承継したものであるから、原告の本訴請求は失当である。」と述べ<以下略>

理由

第一、被告杉井に対する請求について、

一、原告が本件九四番地の土地を所有すること、被告杉井が右土地の一部である本件係争地上に本件建物を所有して右土地を占有することおよび本件係争地の昭和三九年度の停止統制額が一カ月金四一八円であることは当事者間に争がない。

二、そこで、被告の抗弁について判断する。

被告杉井の先代である訴外杉井稔が原告より本件四一番地の二の土地のうち一七坪五合の土地部分を賃借していたこと、右四一番地の二の土地がその後換地処分により本件九四番地の土地となつたこと、右賃借権が未登記であり、右杉井稔が土地区画整理法第八五条第一項による権利の申告をしなかつたため、右換地処分に際し、その目的となるべき宅地の部分を定められなかつたことおよび右杉井が死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得したことは、当事者間に争がない。

ところで、被告は、土地区画整理法第一〇四条第一、二項は、過少宅地借地についてまたは関係権利者の同意による換地不指定清算処分がなされた場合を規定するものであり、本件のように未登記借地権が存する従前の宅地について換地が指定されたが、借地権について目的となるべき宅地またはその部分が指定されなかつた場合を規定するものではないから、本件四一番地の二の土地に存した賃借権は、換地処分とともに本件九四番地の土地に移行したものであるところ、本件係争地は、本件四一番地の二の土地について存した賃借権を行使する部分として相当であるから、被告は、前記のように換地について賃借権の目的となるべき宅地の部分を定められなかつたけれども、本件係争地につき賃借権を有することとなると主張し、原告は、本件四一番地の二の土地に在した賃借権は、換地について賃借権の目的と宅地の部分を定められなかつたから、土地区画整理法第一〇四条第二項により消滅したものというべきであるが、かりにそうでないとしても、被告は、本件九四番地の土地について、具体的に賃借権を行使しうる位置、範囲が定まつていない以上、本件係争地を占有する権限を有しないものであると主張する。

土地区画整理法第一〇四条第一、二項の法意をどのように解すべきかは問題の存するところであるが、そもそも、換地処分の法的性質は、従前の土地に照応して客観的に当然定まつている換地の位置、範囲を確認し宣言するにすぎないものと解すべきであり、土地区画整理事業の施行者が従前の土地上の権利を自ら取得し、これを従前の土地の権利者に対し改めて付与するというような権利の設定処分と解すべきではないから、同条項後段に「換地計画において換地もしくは換地について目的となるべき宅地の部分を定められなかつた」場合とは、被告の主張するように、過少宅地借地についてまたは関係権利者の同意による換地不指定清算処分がなされた場合を指すものと解すべく、本件のように未届借地権について目的となるべき宅地の部分が指定されなかつたからといつて、換地処分の結果賃借権が消滅するものということはできない。

したがつて、前記換地処分の結果、本件四一番地の二の土地について存した賃借権は、その内容を変えることなく、当然本件九四番地の土地に移行したものであり、右杉井稔の相続人としての被告は、右土地のうちの従前の土地に照応する部分につき潜在的に賃借権を有するものというべきである。しかしながら、被告は、前記換地に際し、その目的となるべき土地の具体的位置、範囲を定められなかつたものであり、しかも、本件係争地が本件四一番地の二の土地について存した借地権を行使する部分として相当であると認めるに足りる証拠もないから、被告の抗弁は理由がない。

三、そうすると、被告は、何等正当の権原がないのに本件係争地を占有するものというべきであり、原告に対し、本件建物を収去して、右土地を明け渡し、訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三九年一二月二二日から右土地明渡ずみに至るまで賃料相当一カ月金四一八円の割合による損害金を支払うべき義務がある。

第二、被告杉井を除く被告らに対する請求について、

一、被告菖浦秀雄が本件建物のうち(A)部分に居住して、その敷地五坪八合九勺の土地部分を占有すること、被告川原が右建物のうち(B)部分に居住して、その敷地四坪四合四勺の土地部分を占有すること、被告菖浦すてが右建物のうち(C)部分に居住して、その敷地一坪九合七勺の土地部分を占有することおよび被告砂田が右建物のうち(D)部分に居住して、その敷地一坪五合の土地部分を占有することは当事者間に争がない。そして、被告砂田については成立に争がなく、その余の被告らについてはその方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第四号証によれば、原告が本件九四番地の土地を所有することが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二、そこで、被告らの抗弁について判断するに、被告杉井の先代である訴外杉井稔が死亡し、被告杉井が相続により本件建物の所有権を取得したことは当事者間に争がないけれども、右杉井稔が原告より本件係争地(原告が換地によつて取得した本件九四番地の土地の一部である)を賃借し、同人の死亡後、被告杉井が右賃借権を承継したものであると認めるに足りる証拠はないから、被告らの抗弁は理由がない。

三、そうすると、被告らは、何等正当の権原がないのに右各建物部分の敷地にあたる土地部分を占有するものというべきであり、原告に対し、各自の占有する建物部分より退去して、各自の占有する土地部分を明け渡すべき義務がある。

第三、結論

よつて、原告の被告らに対する請求はいずれも正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。なお、仮執行宣言の申立については、相当でないからこれを却下する。(大須賀欣一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例